2ちゃんねる発の怖い話「先輩シリーズ」をまとめます。
先輩と向日葵
- 189 :稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2010/10/18(月) 20:14:22 ID:NqCrBzBm0
- あれはいつのことだったか。
俺は先輩に聞いた事がある。
「先輩って怖い物とかあるんですか」
俺が真っ先に思いつくのは幽霊だとか、お化けの類だ。
あれこそ万人に怖がられている物ではないだろうか。
しかし、この人はきっと違う。
何故ならその類の物でも、ぶん殴ることが出来るからだ。
倒せるのなら、怖くは無いんじゃないか。
そう思って、聞いてみたのだった。
「あるよ」
先輩と俺は歩きながら話した。
「俺は、そうだな。ヨーコが怖い」
まじめな顔をして答えてくれたので、まじめな答えが聞けると思ったら、そんなもんだった。
「いやいや、そういうのいいです。もっと、こう、真剣に」
えー、とぶー垂れて、先輩は顎に手をやって少し考える。
「・・・・・・向日葵が怖い」
返ってきた答えは意外な物だった。
「え、向日葵って、あの、花ですか。夏の」
頷く先輩。
「どっちかというと、怖いとかじゃなくて、元気な感じしますけどね。綺麗っていうか、可愛いっていうか」
先輩がにやりと笑う。
いつもの笑顔だ。
「あの花、漢字で何て書くか知ってるか」
俺は考える。
いや、考えるまでも無く知っているのだが、一応。
「向うに、太陽の日に、葵ですよね。どうかしたんですか」
「由来は知ってるか」
今度も考える。
わざわざ聞くってことは、一般的な意味じゃないのかもしれない。
俺は恐る恐る答えてみた。
- 190 :稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2010/10/18(月) 20:17:37 ID:NqCrBzBm0
- 「え、と。向日葵は、太陽の方に花を向けるんじゃなかったですか。太陽を追いかけて、こう、ぐぐっと」
少し間があったので、どきどきしていたのだが。
「そう、その通りだ」
拍子抜けだった。
「・・・・・・で、それが、どうかしたんですか」
「そうだな、向日葵は太陽を追う。光を追う。光を追うのは、何だ」
今度はちょっとわからない。
俺はイメージしてみる。
大きな光に、集まってくるものといえば・・・・・・。
「あ、虫、とかでしょうか。夜、電灯とか自販機とかに群がってますよね」
先輩はまた頷く。
「うん、それはそうだ。他は?」
他、他・・・・・・。
あまりイメージ出来ない。
「光を追う、と言ったからわからないのかも。言い方を変えよう。光を求める物は何だ」
あ、これならわかる。
先輩が俺に何を言わせたいのか。
「人間、ですか」
「そうだ」
人間は、その大小に関わらず光を求める。
それは物理的な光に限らず、精神的な、所謂希望という物でもある。
「向日葵の花は、その性質を持っている。何故だ」
また、イメージする。
人間と向日葵の共通点。
光を追うこと、光に向うこと。
「あの花には、一本残らず幽霊が憑いているんだ。一度向日葵畑に行ってみろ。お前の感覚が尖っていたら、見えるかも知れん」
- 191 :稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2010/10/18(月) 20:20:07 ID:NqCrBzBm0
- 背筋に寒気が走った。
背の高い向日葵の下で、うつむいてしゃがみこむ幽霊。
それが一本じゃなく、一面を覆う程たくさんある。
向日葵と、それと同じ数の、老若男女様々な幽霊が。
「太陽は最大級の光だ。そして向日葵は、太陽に似ている。あいつらのぼけた目には、同じに見えるんだ。近付いていって、ようやくわかる。この太陽が偽者だと」
救いを求めた先が紛い物だった時の落胆。
「そして、あいつらは今度こそ本物を見つけるんだ。そっちに顔を向けると、憑いている向日葵もそっちを向く。だから、日に向う葵なんだ」
考えた事も無かった。
生命体として、そういう仕組みだと思っていた。
そこにそんな秘密があったなんて。
「まあ、実際どちらが先かわからないんだけどな。向日葵が太陽を追っていたから憑いたのかもしれない。ただ、今はそうなってるんだ」
俺は納得した。
そんな花だったなんて。
怖い花だ。
その下に、救いを求める青い霊魂を座らせて、まるで太陽に近付こうとするように、高く伸びる。
綺麗で活気に溢れているように思えた向日葵畑が、薄暗く妄執の溜まる鬼門のように思えた。
「先輩は、それで向日葵が怖いんですね」
- 192 :稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2010/10/18(月) 20:22:32 ID:NqCrBzBm0
- 先輩はなんだか照れているようだった。
「いや、違うんだ。実は」
「昔見た、トリフィドの日・・・・・・人類SOSって映画がトラウマでな。見る度なんとなく思い出して怖いんだ。大きいからかな。わからんのだけど」
先輩は決まり悪そうに言った。
俺は笑った。
先輩にも可愛い所があるじゃないか。
「なんだよ、気分悪いな。俺だって怖いもんくらいあるさ」
「す、すいません。でも、なんか意外で」
ちぇ、と一つ舌打ちをして、先輩は足元の小石を蹴飛ばした。
「まあ、本当に怖いのはそんなもんじゃない。本当に怖いのは」
俺の中の、怪物だ。
俺は、もう笑えなかった。
先輩と向日葵 終
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